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INTERVIEW

「ジャパンクオリティ」をアジアの病院へ

東京医科大学病院 栄養科科長・宮澤 靖先生

今回のインタビューは、東京医科大学病院 栄養科科長・宮澤 靖先生。医師や管理栄養士のみならず、薬剤師、看護師、介護福祉士など、患者の栄養管理を多職種の視点からサポートするNST(Nutrition Support Team, 栄養サポートチーム)の仕組みを国内へ先駆的に取り入れ、医療における栄養管理の重要性を広く知らしめたキーパーソンとして知られています。

常に栄養管理の最前線を走り続ける宮澤先生の次なる行先は、なんとアジア。宮澤先生が考える、栄養管理の次なる展開に迫りました。

前編はこちら

※インタビュー時は全員マスク着用の上、三密を避けた環境で実施しております。

【次なる舞台はアジア】

実は数年前から、アジアを中心に海外での仕事が増えているという宮澤先生。

宮澤先生「毎年アメリカをはじめ、海外の学会に出ているんですね。そこでかつての指導教官に会ったり、世界中に友人をつくったり。その中で中国や韓国、ベトナムの栄養士さんと出会う機会があったんです。

特に中国の四川大学の方が、『ちょっと変わったやつだから、一度うちの大学に来て授業をしてくれ』と(笑)。それからご縁ができて、4年前から四川大学で講義をしています。いまは上海の病院でも外来を持っています。

いまは新型コロナウイルスの影響で行けていないですが、中国からマスクの支援をちょうだいするなど、しっかりした信頼関係ができていますね」

 

ハードな日々の勤務の中でも独学で中国語をマスターし、中国人の患者には直接コミュニケーションを取るという宮澤先生。アメリカでの留学経験が、海外に対する意識を育てたといいます。

宮澤先生「やはりアメリカに行って、たくさん友人をつくったことが大きいですね。本当に、世界中に友人がいることは素敵なことですよ。『君たちの時代は日本なんて狭いと思った方がいい』と、学生実習生にいつも言っています。若い学生や栄養士の皆さんは、行く・行かないは別としても、世界の動向にいつも意識を向けておくべきだと思います」

 

常に意識を海外へと向けている宮澤先生は、「次の仕事はアジア」と言い切ります。

宮澤先生「いまはここ(東京医科大学病院)での務めがありますが、そのミッションを果たした後は、アジアに軸足を移そうと思っているんですよ。やるべきことがたくさんありますから」

宮澤先生が見据える次なるミッションとは、一体どのようなものなのでしょうか。

 

【アジアの病院が抱える課題】

アジア各国の視察を通して、それぞれの地域が抱える栄養管理の実態が浮き彫りになってきたといいます。

宮澤先生「例えばシンガポールってね、栄養士の養成校がないんですよ。多くの場合、海外に留学できる経済力を持った方が海外で栄養士資格を取ってきますので、その経済力がなければ栄養士にはなれないという大きな壁があります。ですから、実はシンガポール国内に栄養士が76人しかいません。

そうした状況ですから栄養士さんが引っ張りだこで、複数の職場で栄養士業務を掛け持ちするのが当たり前になってしまっているんですよ。そのような状況では、当然日本のような日常臨床なんてできませんよね」

「管理栄養士が病棟に常駐し、患者の栄養状態を日々チェックする」という日本の日常的な風景は、世界的に見れば決して当たり前のものではありません。「日本の当たり前」をまず「シンガポールの当たり前」にするため、宮澤先生はシンガポール政府と共同で栄養士養成校の創設と教育プログラムの整備に着手しています。

 

一方で「日本の当たり前」が、そのままでは通用しない地域もあるといいます。

宮澤先生「例えば中国には、日本のような基準給食法がありません。つまり入院したからといって食事が出るとは限りませんし、むしろ厨房のない病院が多いんですね。

以前近森病院に中国から視察に来られた方がいらっしゃったんですが、温冷配膳車の前から動かない。『これはすごい!』って感動していらっしゃったんですね。日本のようにワントレーで配膳したいんですけど、それもできないそうなんです。なぜなら病院が4800床もあるから、配膳がまったく追い付かない。日本では考えられない規模ですよね」

 

それでも宮澤先生は現在、中国にある4カ所の病院のコンサルティングを実施。いずれも数千床規模の超大型病院ですが、日本における栄養管理の仕組みを現地にアジャストさせるべく奮闘しています。

宮澤先生「はじめは納得できないことや、違和感を覚えることもたくさんあったんです。でも10回くらい行くと、何となく理解できるようになるんですよ(笑)。『そういうこともあるよね』って感じで。もちろん栄養管理において妥協してはいけない部分はありますが、そういうことを肌で感じる意味でも、ぜひ実際に海外へ出てみるべきだと思います」

 

とはいえ日々の業務に追われ、目の前の状況にとらわれてしまいがちな栄養士の仕事。なぜ宮澤先生は、そのことも踏まえたうえで「海外を見るべき」と語るのでしょうか。

 

【日本の病院給食は素晴らしい】

海外から見た日本の病院給食について、宮澤先生は力強く語ります。

宮澤先生「僕は海外での経験を踏まえて、日本の病院給食は世界一だと思っています。衛生、味、色彩、食材の利用の仕方、さらには患者さんに対する作り手の思いやりの心、どれをとっても素晴らしい。だからこそ栄養士の方々には日々の業務に誇りを持ってほしいですし、その素晴らしさを次の世代につないでいってほしいんです。

一方で最近はクックチルやセントラルキッチンなど、業務の簡素化につながる仕組みが数多く開発されていますよね。また病院自体も再編成されて、中型から大型の病院に機能が集約されていく。

そのこと自体は時代の流れで否定しようがないのですが、作り手の想いが日々の食事に反映されなくなっていくのではないかという危惧はあります。センターから運んできて『レンジでチン』みたいな。それで本当に作り手の想いが伝わるのか」

 

いまも最前線に立って病棟をまわり、食事委託業務を担当するLEOC(レオック)と協力して、精力的に病院給食のクオリティアップに努める宮澤先生。そこには「しっかりした病院給食があってこそ臨床が活きる」という、力強い信念があります。

宮澤先生「僕は食事の委託企業さんを対等なビジネスパートナーだと考えていますし、病院側と常にwin-winの関係でないといけないと思いますよ。

例えば以前新しい産科食を提案した時は、食事内容をLEOCさんと相談し、食器も替えました。僕自身『LEOCさんならできる』と思っていましたしね。

結果的に患者さんには食事をSNSにアップしていただくなど、大変な好評をいただいています。ああいったお言葉をいただけたうえで、そこに的確な臨床の知見も乗ってくるのが、一流だと思いますね」

 

現地調理にこだわる食のエキスパートとして、LEOCに深い信頼を寄せる宮澤先生。委託企業による一食一食へのクオリティの追求と、病院の栄養士による臨床の追求がかみ合ってこそ、「世界一の病院給食」が生まれているのです。

 

【「世界一の誇り」と「変化への適応」を大切に】

常に食事を口にする患者のことを思い、その立場に立った仕事に取り組んでほしいと強調する宮澤先生。その仕事こそが、まさに世界一だと語ります。

宮澤先生「若い栄養士の方には、常にハートの部分、世界一のクオリティを持つ日本の病院給食の従事者であるという誇りを持ち続けてほしいですね。そして中堅からベテランの方には、若い方を育てていく器量と気概を持ってほしいです。

また僕は、若い栄養士たちを病棟にできるだけ行かせてあげたいと思っています。実際にお食事を口にする患者さまにお会いしなければ、想いのこもった食事をお届けするのは難しいと思っていますから。

そこで栄養管理科の部下たちには、僕の自作の臨床栄養のポケットマニュアルをリニューアルして持たせているんですが、その表紙にこういうメッセージを書いたんです。

“It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent that survives. It is the one that is most adaptable to change.”

この言葉は『進化論』を著したチャールズ・ダーウィンの有名な言葉なのですが、『生き残る種とは、最も強い種ではない。最も知的な種でもない。それは、変化に最もよく適応した種である』という意味です。

日本でもこれから病院給食が大きく変化していく時代を迎えますので、その変化にいち早く対応できる管理栄養士であり続けたいですね」

 

宮澤先生が若い栄養士たちに力強く送った言葉は、病院の栄養士のみならず、委託企業の栄養士にも通じるもの。「食事の向こう側にいる一人のために」という誇りをぶれずに持ち続けながらも、時代の潮流をいち早く読み取り、日々の業務に生かしていく力が、これからの栄養士には求められています。

世界の動向を冷静に見つめたうえで、世界一の「ジャパンクオリティ」をアジアの病院へ広げるべく先駆ける宮澤先生。豊富な経験と実績を積んでなお、若々しい好奇心と誇りに燃えて、誰よりも早く走り続けています。

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